これまでブログで、アジアの政治に関することを書いたことはありますが、国内政治については一切書いてきませんでした。「旅行記」プラス「雑記」というスタイルのブログですから、比較的お気楽なことばかり書いてきました。
ですが今回は長期にわたり政権を担当した安倍首相退陣、ということで、安倍内閣について思っていたことをまとめてみました。読者の方々にも安倍支持・不支持の両方がいらっしゃるでしょうし、またブログは不特定多数の方にも開かれていますので、いつもと全く違った筋からの批判が来るかも知れません。アクセス数も増えるのか減るのか、愛想づかしされるのか、見当もつきませんが、この手の記事を載せるとどういうことになるのか、試してみたいと思います。事実関係が違っていたらご教示ください。
私はプロの政治評論家ではありませんから、議論の内容については私個人の印象論と推測・そして感想をまとめたものとしてお読みくだされば幸いです。では始めます。
私はずっと「なぜ安倍氏なのか?」がわかりませんでした。一度失敗した人が許されて二度目の政権を担当する、というのは吉田茂以来ですし、自民党の党則を変えてまで、なぜ最長政権になったのかもわかりませんでした。
朝日新聞あたりを読んでいると批判記事ばかり、時に悪口の類で、安倍首相の良さ、そして、なぜ安倍首相に根強い支持があるのかが見えてきませんでした。こうしたことを掘り下げる記事を書くことが今のジャーナリズムに欠けていると思っていました。
推測するしかないのですが、歌の世界と同じで、競争が激しくなくなった、ということではないかと思います。21世紀になって歌の世界で中島みゆきやSMAPの曲が年単位でヒットチャートにとどまり続けるようになりましたが、あれはその歌が名曲だと言うことに加えて、歌謡曲界の競争が激しくなくなった、ということだったのでしょう。しばらくしてジャニーズとAKB系統、EXILE系統がヒットチャートを独占するようになり、ヒット曲が聞こえてこなくなりました。そして韓国のKーPOPの方が優勢になったわけです。
それと似たような状況が、今の政界にあるのではないかと推測しています。
一度目の内閣は特に教育・憲法関連で突っ走りまくっていましたが、二度目は経済をなおざりにして失敗した反省から「アベノミクス」を打ち出しました。財政・金融大丈夫なのか、と思うほどの大盤振る舞い。さらにコロナ禍でもバラマキまくり。株も下がっていません。
安倍氏は新自由主義より国家社会主義に近いのではないか、と思うことがよくありましたが、市場原理主義者と違い、戦前に統制経済を目指した岸信介の系統ですから、経済を思い通りにコントロールしたい、それで支持率を安定させて、本当にやりたい憲法・防衛・教育の改革をしたい、という思いがあったように推測しています。ですから意外と「官製春闘」と言われたように、賃金アップや、あるいは「働き方改革」などには妙に熱心だったりしました。ちょっと昔の民社党の系統の影響があるのでは、という気もしていました。
ときどき防衛関係で強引なことをしましたが、それは極東情勢の緊張や対米関係の変化を受けてのことでしょう。
もともと、安倍氏が注目されるきっかけは北朝鮮拉致問題の際、帰国した拉致被害者を北朝鮮に戻さない、という強硬外交を戦後初めてやったことでした。ですから、一枚看板としての拉致問題解決の旗は降ろせなかったのでしょうが、実際は「解決」が難しい状況にあるのではと推測しています。小泉内閣時代以上の成果を上げること自体が無理だったのではないでしょうか?こうして拉致問題も成果がありませんでした。
「外交の安倍」と持ち上げる人がいますが、ロシア外交やイラン外交など大失敗だったし、韓国中国ともうまくいかず、アメリカにはすがっているだけ、という印象でした。インドや台湾などと接近する政策でも採れば面白かったですが、そんな動きも具体化しませんでした。
首相の諸政策のうち、「私怨」を感じたのが教育政策でした。一度目の内閣では教育基本法改定や教員免許更新制をつくりました。安倍氏の教員に対する不信感から、特に私学教員を視野に入れた教員統制を目指していたのではないかという印象を持っています。安倍氏は私学育ち。「左翼」教師やそれにつながる日教組への反感と、リベラル派私学や大学への統制、そして少子化で苦しむ「お友達」である私学経営者への配慮を考えていたのではないでしょうか?
「森友・加計」疑惑に象徴されるように、安倍内閣の疑惑は私学がらみの疑惑が目立ちました。そして理念ばかり先行した大学入試改革。安倍氏が直接関わった形跡は薄いですが、背景に安倍氏の学歴コンプレックスがあったのでは、と勘ぐっています。
それに比べると、憲法に関しては意外にも慎重でした。これだけの長期政権を築き、チャンスもあっただろうに結局手をつけませんでいた。改憲項目もあっちへ行ったりこっちにいったり、保守系の支持をつなぎ止めるためのアピールだったか、あるいはレガシーづくり、という程度の思いで、日本の将来を見据えてどうしてもやらなければならない、というような信念に基づいたものではなかったのかも知れません。
ただ、安倍内閣になると、「立憲主義」という戦後ずっと忘れていた言葉がさまよいはじめました。戦後わざわざ口にしなくてもよかった言葉を使わざるを得ないような状況があったのかもしれません。集団的自衛権の解釈変更も閣議決定というやり方でいいのか、と思いましたが、むしろ防衛面などより、臨時国会を開かなかったことがいちばん大きな憲法違反でしょう。
安倍内閣は二階・麻生・菅という三人の70代の政治家が支えていました。特に二階、麻生氏は80歳前後の年齢です。この人達に対する批判も強いですが、私はある程度の安定を与えていたと思います。私は比較的高齢の政治家に甘く、若い政治家に不信感を持ちがちだからかも知れませんが。
この次はとりあえず自民党の誰かが政権を引き継ぐのでしょうが、不評だった場合、自民党を補完する、あるいはそれに代わる勢力として「維新の会」がクローズアップされる可能性があります。維新は今「大阪都構想」でまた住民投票をやろうとしており、「勝つまでジャンケン」と言われていますが、何かと急進的な突っ走り感が強いです。
安倍氏は勝つ見込みがあるまで憲法改正に慎重に対処していましたが、維新あたりだと憲法問題でもイチかバチかで国民投票にかけて、負けても何度も強引にやりかねないのではないでしょうか?
「左」を見ると、旧民主系が再合同するようですが、枝野氏などは政権の経験もあり、旧来型の左翼よりは現実的で堅実なのだろうと思いますが、地味なので、さほど人気が出ないのでは、という気もします。世論は旧社会党を見る目に近くなっているように思います。
むしろ「れいわ新選組」などを母体にした左派ポピュリストを担がざるを得なくなるかも知れません。「反緊縮」などの主張が繰り広げられ、それが大きな支持を得て実行に移された場合、財政経済は大丈夫なのか、日本を破滅に追いやるのではないか、と危惧します。
安倍氏のあと、自民党内で穏健な安定政権ができればよいですが、不安定化したり、その隙を突いて維新や左派ポピュリストの台頭を招くことがないように願うばかりです。
もしそれが現実化したら、経済でも憲法でも教育でも、「安倍のときはまだマシだった」と嘆くことになるのではないか、と危惧しています。さまざまな不満をもたらしつつも、経済面や今度のコロナ禍対応でもさまざまな利害調整をしてギリギリのところで持ちこたえさせてきたのが二度目の安倍内閣だと思います。その一線が破られそうな気もします。
私も杞憂でありたい、何とかなって欲しい、むしろ安倍氏のときよりよくなって欲しい、という願望は強いのですが、その見込みはあるのでしょうか?