私は庶民層の出身です。昔風に言えば「プロレタリア」層です。親から受け継いだ、あるいは先祖代々の財産は、ほとんどありません。ですから世襲というものについては批判的です。天皇やある種の宗教団体などは権威や伝統を維持するためにやむを得ない部分があるとは思いますが、その他の世襲はいかがなものかと思います。
平成になってから顕著になったことに、総理大臣、および自民党総裁が世襲政治家によって占められるようになった、ということがあります。
自民党結党以後の歴代首相・自民党総裁とその出身地・学歴、父親について並べると以下のようになります。
福田赳夫 群馬 東大・官僚 (父親が町長)
竹下登 島根 早稲田 (父親が県会議員)
(祖父細川護立は貴族院議員)
森喜朗 石川 早稲田 (父親が町長)
*は自民党在籍経験がある非自民の首相、○は非自民の首相、かっこ内は首相になれなかった自民党総裁です。
出身県と選挙区が違っている場合、かっこ内は選挙区のある県です。
昭和時代の首相のほとんどは、それなりの家系の出身者のようですが、世襲議員は鳩山一郎氏だけ。東大や官僚出身者が目立ちます。ところが平成になってからの歴代自民党総裁は、初期の竹下・宇野・海部氏こそ違うものの、宮沢氏以後、首相になれなかった河野洋平・谷垣禎一氏も含めて、ほとんど皆世襲議員です。森喜朗氏だけが親が町長で国会議員ではありませんが、世襲政治家ではあるわけです。
宮沢・河野・橋本・小渕・小泉・安倍・福田・麻生・谷垣の各氏、みんな親が国会議員。非自民の首相経験者のうち、細川氏は旧華族で祖父が貴族院議員、羽田・鳩山由紀夫氏が世襲議員で、自民党在籍経験を持つ首相は世襲なのです。非自民系の村山・菅直人・野田三氏だけが非世襲です。昭和時代に多かった「東大卒の官僚出身者」はいなくなり、宮沢氏がその最後の存在でした。東大→官僚コースをたどりつつ、東京生まれ、世襲議員でもある宮沢氏がターニングポイントともいえそうです。東大卒も非自民の鳩山由紀夫氏と首相になれなかった谷垣氏だけです。
それに伴って出身地が東京、選挙区が地方、というケースが多くなります。出身地欄にかっこが入っていない場合でも、中高を東京で過ごした、という経歴がみられます。政治家や地方財界の子息の場合、小中学校の途中まで地元で過ごし、その後、東京の名門校に入学ないし転校させて人脈を作らせる、あるいは名門大学進学を有利にする、ということをするケースがあるようです。菅直人氏と安倍晋三氏の出身地と選挙区が入れ替わっているのが興味深いです。
今回の自民党総裁候補者のうち、石破茂・岸田文雄氏は世襲議員でした。今度は非世襲で都市部を選挙区に持つ菅義偉氏が首相ということですから、ある意味新鮮です。菅氏は秋田出身で神奈川が選挙区、非自民の菅直人氏と似たコースです。両菅氏(「かん」と「すが」ですが)が「上京型」ですね。
今までは地方の選挙区に親譲りの強固な地盤を持ち、他の候補の支援ができる余裕を持つ議員が派閥のボスになり、首相になっていました。菅氏は横浜が選挙区だそうですが、都市部を選挙区に持つ自民党議員は落選することが多く、派閥のボス、ひいては首相にはなりにくいものでした。
都市部住民が保守化し、小選挙区比例代表並立制の効果もあって、都市部選出の自民党議員も地域によっては安定した地盤を築くことができるようになったのでしょうか?
令和時代最初に首相に就任した「令和おじさん」が平成時代の世襲政治を打ち破るターニングポイント的存在となるのか、それとも例外的存在になるのか、そういう意味でも菅氏に注目です。ちなみに念のため調べて見たら父親は秋田の町会議員をやっていたそうです。でも事実上非世襲でしょう。
出自から考えれば歓迎すべきですが、肝心なのは人柄や政策でしょう。こちらはネット記事を読む限り、今のところ、私としては「?」のつく話が多くなっています。どうなることやら。