写真のない旅行記

カメラを持たずに旅した記録です。雑記も載せています。

06  韓国デパート史<その1>

 旅行者というものは、観光地のある中心部をウロウロするものです。郊外の住宅地などには通常行きません。となると、買い物も郊外のショッピングセンターを訪れることは少なく、中心部のデパートを訪れることになります。
 
 考えてみれば私は韓国に何度も行っているのに、郊外のショッピングセンターなどには行ったことがありません。もっぱらデパートばかり。デパートは斜陽の時代、といわれますが、観光客にとってはまだまだ大都市のデパートは必要な存在なのではないでしょうか?
 
 ということで韓国のデパートには思い入れがあります。かつて読んだ本やネットの記事、それに自分の数少ない体験をまとめて、「韓国デパート史」なるものを書いてみました。ちなみに韓国では「デパート」は通じないようで「百貨店」です。知ったかぶりの寄せ集め記事で、正確なのかどうかもわかりません。間違いがあればご指摘いただきたいのですが、零細ブログゆえ、期待薄ですね。では始めます。
 
 長い間、ソウル旧市街の明洞地区には3つのデパートがありました。ロッテ・新世界・ミドパです。それぞれ個性が違っていて、大規模さと豪華さのロッテ、伝統というか、古色蒼然の新世界、そしてミドパは庶民的と色分けされていました。
 
 ロッテは日本の菓子業界で成功した在日韓国系企業が70年代に逆上陸して韓国で流通・ホテル業に進出して出来たものです。日本的なデパートで、規模も一番大きいし、豪華さでも周囲のデパートより一歩ぬきんでています。かなり混んでいます。
 
 新世界は三越京城で戦前の建物。これが戦後韓国人の手に渡り、さまざまな経緯の末、現在の経営になりました。店は東京や大阪の老舗百貨店のような雰囲気です。初めて行ったときにはエスカレーターがなく、一階から上層階までまっすぐ突き抜ける階段と、踊り場から翼を広げるように分かれる階段が組み合わされていて、それが独特の荘厳な雰囲気をもたらしていた覚えがあります。かつて韓国の最大財閥「三星」の経営だったこともあって、やはり三越を彷彿とさせます。混み具合はまあまあ。
 
  もうひとつあった、ミドパ百貨店ですが、これが戦前はやはり丁子屋という日系デパートで、戦後やはりいろいろあったようです。以前図書館で古い世界地理の本を見たことがあって、1960年代のこのデパートの内部の写真がありましたが、ガラスケースに万年筆が並べられていて、それを覗く人がいる、そんな時代がかっていて興味深い写真でした。「ミドパ」は「美都波」と書くそうで、この漢字名も当て字のようで興味を惹かれます。
 
 内部はかつての「長崎屋」の雰囲気でした。かつての韓国のデパートはロッテと新世界以外は、チープで小汚い、日本で言えば「長崎屋」的雰囲気だったのです。70年代まではソウルを代表するデパートだったようですが、その後このデパートは庶民向けと見られるようになり、「安さのミドパ」という説明がついているガイドブックもありました。よくバーゲンをやっていたようです。
 
 しかし、ロッテ・新世界との競争に敗れ、郊外に移転。旧本店は90年代前半、若者向けの「メトロミドパ」となりましたが、惨敗。2000年頃に私が行ったときはソウルの一等地にあるのにもかかわらず、本当にひとりも客がいないのではないかと思いましたし、地下のCDショップが充実しているという評判があるだけでした。
 
 つぶれないのが不思議なくらいでしたが、郊外の新本店は行ったことないのでどうかなあ、と思っていました。やはり不振だったのでしょうか。ロッテが引き受けて営業することになったようです。旧本店のメトロミドパは買い手がつかないと聞いていましたが、その後「ロッテヤングプラザ」というものになりました。今はガラス張りになっていますが、丸みを帯びた建物の形は当時のままです。
 
 その後調べてみると、ミドパ百貨店は、98年に「法定管理」に入って、再建がうまくいったところで身売りしたそうです。「身売りの成功例」と書いてありました。そういうことがあるのか、と思いました。
 
 韓国では97年のIMF危機でデパートの約半分がつぶれたり、不渡りを出したそうです。私が韓国によく行った2000年ごろは再建のため営業を続けていた店もあったし、その頃既につぶれた店もあったようです。その後も再編が続き、ロッテ・現代・新世界が3強になったようでした。
 
 ソウルでは80年代から、高級志向の「ギャラリア百貨店」や「現代百貨店」をはじめ、いろいろ新興デパートが出来ました。私はほとんど行っていませんので雰囲気は今ひとつわかりませんが、生き残ったものもあるし、「三豊百貨店」のように文字通り「崩壊」したものもありました。
 
 韓国のデパートは日本と違ってもともとは一企業一店舗主義でした。地方には地元資本のそれこそ「長崎屋」的雰囲気のデパートがあって、例えば釜山には港のある旧市街に「美花堂百貨店」(龍頭山公園という山の上の公園から屋上に入れるようになっていて面白かった)、新市街の西面地区に「太花百貨店」などがありました。しかし、90年代以降、ロッテ・新世界、それに新興の財閥系高級店「現代百貨店」の地方進出に押されていずれもつぶれています。ソウルにも「セロナ百貨店」などのチープ系デパートがあったそうなのですが、これもつぶれたようです。
 
 江南地区、COEXのところにある「現代百貨店」にも何度か行きましたが、2000年頃は大きな家電売り場と主婦がバーゲンセールで争奪戦をしている、私が子供の頃のデパートの風景を彷彿とさせましたし、昨今は日本以上の高級志向の店になっています。時代の変化とともに韓国のデパートも変わっているようです。
 
 
 昨年は新世界大邱に行きましたが、真新しくて大きな建物、高級感もあふれています。日本のデパートはもとより、ソウル中心部のデパートより新しいぶん垢抜けていました。他のさまざまな分野にも見られますが、デパートも新興国ゆえに新しい店は日本以上の進化を遂げているな、という感想を持ちました。