韓国大統領選挙で進歩・革新系「共に民主党」の李在明氏が当選したとのことでした。前任の尹錫悦氏が「非常戒厳」を宣布して失敗し、罷免された後の選挙ですから、反対勢力が当選するのは当然といえましょう。しかも保守派は分裂選挙でしたから、余計勝てません。
もっとも、このような情勢の中で保守派が意外にも善戦したとの評価も見かけました。「国民の力」の金文洙氏と「改革新党」の李俊錫氏、2人の保守系候補の得票数を合計すれば当選した李在明氏の得票をわずかに上回ったということです。
保守派が意外にも善戦した背景として、そもそも、尹前大統領が非常戒厳を出したのは野党だった「共に民主党」の弾劾攻勢にブチ切れたからで、「共に民主党」の方が悪いのだ、という主張があります。
また、李在明氏、いくつか刑事訴訟を抱えているらしく、そういう面で投票をためらった人もいる、という報道も見かけました。ただ、投票率は79%もあったということです。日本では考えられませんね。
それはさておき、日本人である私にとっては、日韓関係にどのように影響するか、が気がかりなわけです。前々任の進歩派系大統領であった文在寅氏の時はとかく日韓がギクシャクした、という印象があります。ですからまた「共に民主党」の政権になって大丈夫かな、と思うわけです。
ですが、考えてみれば、保守派の李明博氏や朴槿恵氏も日本には冷淡だったような印象がありますし、進歩系でも昔の金大中氏の時には融和ムードでした。保守派だから、進歩派だから、と言って一概には親日反日とは言えず、前任の尹錫悦氏が例外的に関係改善の意欲を持っていた、といえるかもしれません。
私はその点では尹氏に期待していたのですが、今度の李在明氏、どう出てくるでしょうかね?
どうやら李在明氏、以前は反日的発言が多かったそうなのですが、このところは軌道修正を図っているのだとか。まあ当選後は対日面で国内世論受けを狙った反日的発言は控えてほしいし、日韓関係の改善に尽くしてほしいと思います。しかし当面、日韓関係改善に向けた積極的施策を期待するのか困難かもしれませんね。
さて、この大統領選を巡ってしばしば報道されたことにはもう一つ、韓国社会の「分断」の問題があります。韓国は以前からの「南北」分断、慶尚道と全羅道の地域感情に関わる「東西」の問題に加え、所得格差、世代間の分断、それに若い世代で男女の分断があるそうです。
こうした「分断」のなかで、韓国独特だな、と、私が特に関心を持ったのはこの「男女」の分断です。
かつての韓国は日本以上に男尊女卑の激しい国で、それを乗り越えようとする韓国フェミニズムが盛り上がっている一方で、男性の側には女性嫌悪の風潮が広がっているというのです。
その結果、若年層で男女の対立が生じ、非婚化や日本以上の少子化に拍車がかかっているとか、支持政党でも女性は進歩派、男性は保守派、と分断されているとか、などといわれています。女性はフェミニズムに親和的な進歩系を好み、男性側はそれに反発して保守系支持に走る、というのですね。
韓国では男子だけに兵役がありますから、男性の側に男女同権と言っても受け入れがたいものがある、というのは男性の私としては非常によく理解できます。私が韓国人だったら、男性の兵役が逆差別だと強く感じるでしょう。
韓国は北朝鮮との問題を抱えていますから、兵役を安易に廃止することができず、一方で少子化ですから、男女同権を考えるとき、女性にも兵役を、というのが妥当にも思えるのですが、さすがに負担の大きい新たな義務を女性に課すことはこれまた極めて困難であるはずです。
今時の韓国の若者など、日本人と変わらないライフスタイルや価値観を持っているでしょうから、男性側だけが青春の貴重な時期を奪われることにフラストレーションがたまって来ることと当然だと思いますし、兵役によって得られる就職等の優遇がなくなることへの不満にも納得できます。
こうした「分断」をどう克服できるのか、なかなか困難なことだと思いますが、新大統領にはこの点への取り組みも求められるでしょう。
ここまで書いたことは、報道の受け売りとそれに関する私の感想にすぎませんが、こうやってまとめてみると、韓国はやはり相当な困難を抱えているな、と思います。
李在明氏、「分断政治を終わらせる」と宣言したそうですが、国内の問題はもちろん、日韓をはじめとする外交面も含めて、融和ムードを作り上げることができるか、注目しておこうと思います。