写真のない旅行記

カメラを持たずに旅した記録です。雑記も載せています。

14  北海道とアイヌ

 北海道というと、雪とか寒いとか、牧場が多い、魚介類がおいしい、などというイメージがあるのですが、そのほかにアイヌ民族を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?かつて、古い旅行案内本などでは「アイヌ集落」の紹介があり、白いひげを生やした「アイヌの酋長」という人物の写真が載っていたものです。ですが私が子供の頃には既に民族差別などに配慮してか、そのような観光写真は掲載されていませんでした。1970年代に入る頃になくなったようです。

 

 それはさておき、北海道に住んで久しい私ですが、知人友人が少ないこともあって、「この人はアイヌ民族だ」と明確に意識して付き合った人がひとりもいません。2~3人、「この人はもしかしたらアイヌ系ではないのか?」と思われる人がいたのですが、そこまで親密になって身の上話を聞いたわけでもありませんし、カミングアウトされたこともありません。もしかしたら私の勝手な思い込みで、アイヌ系ではない可能性も大きいのです。

 

 また、北海道の博物館にいくと、アイヌがらみの展示がありますし、最近、白老町に「ウポポイ」という「民族共生象徴空間」と銘打った施設ができたのですが、コロナ禍ゆえ、積極的に動き回るわけにも行かず、一度覗きに行きたいと思ってはいるのですが、まだ行けていません。

 

 日常生活の中でも、北海道内におけるアイヌの影は極めて薄いといわざるを得ないでしょう。

 

 先日ふと思い立って、アイヌ語の本を探しに行きました。いずれこのブログにも書くと思いますが、このところやたらにいろんな言語に興味が出てきて、本気で勉強するわけではないのですが、北海道に住んでいるのだからアイヌ語のカタコトぐらい知っておいても悪くないだろう、と思ったわけです。

 

 ところが札幌の大型書店に行っても、これ、というアイヌ語の本は極めて少ないのです。CD付きで使い物になりそうなものは、「ニューエクスプレス アイヌ語」という本ぐらいでした。このCDもネイティブの発音とは言いがたい、アイヌ系の人ではあるのでしょうが、どうも母語話者とは言いがたい人がテキストを読んでいます。

 

 かつては参議院議員を務めた萱野茂氏が地元のSTVラジオで「アイヌ語講座」をやっていました。この人はアイヌ語がペラペラでしたが、母語話者としては最後の世代だったのでしょう。萱野氏は2006年に亡くなってるのですが、おそらく氏が亡くなった前後、21世紀の初頭に赤ん坊の頃からアイヌ語で育った、アイヌ語母語話者というのはほぼ絶滅してしまったのではないかと思われます。

 

 いまもSTVラジオでアイヌ語ラジオ講座がありますが、どうもアイヌ語の継承活動をしている人たちが講師をしているようで、母語話者とは言いがたいようです。

 

 アイヌ語もそのような状態ですが、もうひとつ、アイヌ料理。これまた先日思い立って、あちこち旅行に行けないのでせめて札幌で世界の料理を食べられないか、と思い、まずは地元、アイヌ料理を食べてみよう、と思ったのですが、検索してもアイヌ料理を手軽に食べられそうな店は一軒だけ。それも行ってみたら閉店していました。

 

 あれこれ検索すると、やはり「ウポポイ」にある食堂でアイヌ料理のセットが食べられるようですが、わざわざ白老まで行かなければいけません。アイヌの本場北海道の中心都市札幌でもこのような有様で、アイヌ料理を気軽に食べられる状況ではありません。

 

 「アイヌ料理」そのものも、メジャーなもの、よく一般で作られているもの、食べられているものはきわめて少ないといわざるを得ないでしょう。アイヌは国家をつくらなかったので、アイヌ語にも共通語、標準語と言えるものはなく、また世界の多くの地域の料理が宮廷料理や上流階級の料理が大衆化して広がったものが多いのに対し、宮廷や上層階級がなかったアイヌ民族が料理を洗練させていったとは言いがたかったのでしょう。

 

 このように北海道であってもなかなかアイヌ文化に触れる機会というものは乏しいものです。アイヌ料理ぐらいは、もう少しメジャーになって、手軽に食べられるようになれないかな、と思ってしまいます。